3/8 宇宙開発の希望の火

大型ロケット「H3」初号機の打ち上げは失敗した。だが宇宙開発は幾多の失敗を乗り越えて星の世界を私たちに近づけてきた。松本零士さんは「銀河鉄道999」の文庫版に寄せた文章に「努力しないものに報いはあり得ない」と記した。希望の火を消してはなるまい。

 

松本零士さんがまだ「松本あきら」の名義で描いていたころの作品に、悲しい運命を背負った少女が主人公の作品がある。彼女が持つ「マリー」という人形の秘密を軸に、大人たちの欲望もからみながら、物語はスリリングに展開する。タイトルは「星よ消えないで」。

もともと雑誌で連載していたときは、「青い目のマリー」という題名だった。単行本にするとき、松本さんの希望で改題したという。作中では星が輝く空を、登場人物たちが静かに見上げるシーンがたびたび描かれる。それぞれ大切な人への思いを秘めて。タイトルを変えたことで、そんなメッセージが浮かび上がった。

現実の世界では残念ながら、またも星に願いは届かなかった。大型ロケット「H3」の初号機がきのう種子島宇宙センターから打ち上げられた。うなりを上げて空を昇っていく姿を仰ぎ見ながら、今回こそはと安堵が広がり始めたのもつかの間。2段目のエンジンの点火を確認できず、地上から信号を送って機体を破壊した。

松本さんの代表作のひとつである「銀河鉄道999」の文庫版1巻に寄せた文章に、「努力しないものに報いはあり得ません」と記した。だからこそ主人公の鉄郎少年には「波瀾万丈の物語」を用意し、成長のかてにした。宇宙開発も幾多の失敗を乗り越えて星の世界を私たちに近づけてきた。希望の火を消してはなるまい。