3/11 つなかん

ツナ缶といえばマグロなどを原料とする缶詰めを指す。宮城県気仙沼市唐桑町の鮪立という地区に「唐桑御殿つなかん」という民宿がある。鮪という字はマグロとも読む。経営しているのは菅野一代さん。鮪と菅で、つなかん。ここを訪れた若者たちによる命名だという。

元はカキ養殖などを営む菅野さん一家の自宅だった。2011年3月11日、東日本大震災津波に被災。補修し学生ボランティアの拠点に開放した。皆がいつでも帰れるようにと震災の2年後、民宿を開業する。菅野さんと若者らの10年超の時間を描くドキュメンタリー映画「ただいま、つなかん」が都内などで公開中だ。

▼ボランティアが縁で気仙沼に移住する若者が相次ぎ現れた。後に家庭を構えた人もいる。その一方、家族を事故で失うなど「つなかん」が見つめた歳月が穏やかな日々ばかりではなかったことも映画は伝える。生まれたつながりがあり失われたつながりがある。直近では新型コロナウイルス禍が広く観光業に打撃を与えた。

▼私事で恐縮だが、震災直後の取材を機に、仕事や家族旅行で気仙沼など東北の被災地を時々訪れている。昔はにぎわっただろう商店街の跡地に広い道路が走る。使い道の定まらない空地も目立つ。きょう「笑顔で頑張る」被災地の方々がテレビなどに登場するだろう。その裏にある一人ひとりの12年に想像力を働かせたい。