3/10 人道的な戦争とは?

東京大空襲の悲劇から78年。一夜にして10万人の命が奪われた。米軍は当初、新開発の照準器で軍需工場を狙い撃ちにすることを考えていたがうまくいかず、無差別爆撃にかじを切ったそうだ。いまウクライナでも8000人の死者が出ている。科学技術の進歩により人道的な戦争が可能になるという発想はいかに空虚なことか。

 

東京が猛火に包まれた惨劇から、きょうで78年。米国でベストセラーになり、昨年日本で発刊された「ボマーマフィアと東京大空襲」(マルコム・グラッドウェル著、光文社)は市民を標的にした爆撃がいかにして行われたかに迫る。ジャーナリストの筆が生々しい。

新開発の照準器で軍需工場をピンポイントに狙えば、一般市民の被害を抑えられるはずだ。こう考えた司令官がいた。だが思うような結果が得られない。解任され、米軍は夜間の無差別攻撃にかじを切る。砂漠に日本家屋を再現し、焼夷弾の燃焼実験も。一晩で10万人の命が奪われ、続けて日本各地で悲劇が繰り返された。

科学技術の発展により「人道的な戦争」が可能になるという発想が、いかに空虚だったことか。当時の照準器はGPSやレーダーに変わった。でも、ひとたび鉄砲弾やミサイルが飛び交えば罪のない人々が犠牲になる光景は何も変わっていない。ウクライナではこの1年で、8000人超が亡くなったと伝わる。

グラッドウェル氏も訪れた東京大空襲・戦災資料センター(東京都江東区)で、犠牲者の名前を一人ひとり読み上げる追悼行事が営まれた。一日がかりで約1900人分。10歳、7歳、4歳、0歳。おなじ名字はきょうだいだろうか。目を閉じると、幼子の笑顔が浮かんだ気がして、胸が苦しくなった。