3/14 袴田さんの再審

袴田巌さんの再審を認める判決を東京高裁が出した。静岡地裁が9年前に再審開始を決めたのに高裁がひっくり返し、最高裁から差し戻しを受けてたどり着いた結論である。検察はいったいいつまで袴田さんを死刑囚の身分に置くのだろう。潔く再審を認め、袴田さんに天下晴れての自由を与えなければならない。

 

捕らえられたウサギが覆いの中で身をかがめ、動けずにいる。冤罪の「冤」という字はそんな状態を表しているという。そう聞いてよく見れば、ワかんむりの下に、兎の異字体がうずくまった格好だ。不条理のワナに落ちた人の悲嘆がそこには満ちていよう。

事件発生から57年。静岡県清水区で起きた一家4人殺害で死刑が確定した袴田巌さんの再審を求める訴えを、きのう東京高裁が認めた。静岡地裁が9年前に再審開始を決めていたのに高裁がひっくり返し、最高裁から差し戻しを受けてたどり着いた結論である。しかし、これも再審の入り口にすぎぬ。袴田さんは87歳になった。

死刑の執行と拘置は止まっているが、この人をさいなんできた病苦を思えば深いため息が出る。しかも、こんどの決定は、唯一の証拠とされてきた衣類をみそタンクに隠したのは「捜査機関の者による可能性が極めて高い」と指摘している。大がかりな証拠捏造の疑いがいよいよ強まった。その図を想像するだけで鳥肌が立つ。

「冤」の字を背負った袴田さんは、いまなお死刑囚の身分である。その「囚」の文字は、閉ざされた空間に人が押し込められたかたちだ。検察はいったいいつまで、無実が濃厚な人をそういう境遇に置くのだろう。潔く再審を認め、袴田さんに天下晴れての自由を与えなければならない。正義に応える、最後のチャンスである。