3/20 宗教と社会の軋轢

「この法律は基本的人権に重大な関係があるから、適用は最小限にすべきだ」。あえて取り扱いを自戒する条文を冒頭に置く法律がある。「団体規制法」だ。オウム真理教を念頭に、資産や信者の住所氏名を定期的に報告させる。施行は1999年、罰則も付く。

信教の自由にも抵触する可能性のある立法のきっかけは、むろんあの無差別テロだ。28年前のきょう、同じ週明け月曜の朝。地下鉄にサリンが飛び散り、人々が昏倒してゆく。14人が亡くなり6千人超が負傷した。松本サリン事件含め、教団は世界初の化学兵器テロを決行した団体となった。

教団の透明性を高め、被害者への賠償を進めてほしい。新法制定にはそんな期待も伴っていた。その趣旨は伝わっているかどうか。先日、後継団体アレフの資産報告が不十分だとして、公安審査委員会は、同法に基づく初の「再発防止処分」に踏み切った。活動が大きく制限される団体側は、国を相手取って提訴した。

遺品の手帳には「4月1日花見」とあった。以来「桜の花が嫌いになった」と、駅助役の夫を失った高橋シズエさんはつづった。遺族もまた、心の一端を殺されたのだ。時に度を超す暴走と、守られるべき内心の自由と。両端の間で繰り返し立ち現われる宗教と社会の軋轢をどう考えるか。20世紀から積み残した宿題は重い。