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市役所で市民課長を務める男性。陳情対応などの仕事は先延ばしか、たらい回し。しかし病で人生の残り時間が長くないと知り、裏町のささやかな公園整備に粉骨砕身する――。黒沢明監督の作品を英国に舞台を移しリメークした「生きる LIVING」が公開中だ。

都心の映画館は大勢の客でにぎわっていた。リメークの発案者で脚本担当の作家、カズオ・イシグロ氏は生きる過程で黒沢映画に影響を受けたと語る。他人の称賛や感謝を求めず、自分がなすべきことをせよ、と。英国版では主人公が新人課員に、この先仕事への情熱を失いかけたらこの公園作りを思い出せ、と言い残す。

黒沢監督は「生きる」が公開された1952年、まだ40代だった。しかし「生きているうちにしなければならないことが、もっとたくさんある」という、焦りにも似た実感が作品の土台になったと生前語っている。撮りたいテーマはまだ数多くあるのに、もう40代。加速する時間の流れが名画誕生を後押ししたともいえる。

きょう、多くの企業が入社式を開く。国際情勢、業界事情、自社の未来をトップは語るだろう。しかしもし1対1での本音の助言なら「あれもこれも、やりたいことは貪欲に全力で取り組め。人生は案外短いぞ」と言いたいのではないか。誰にとっても、きょうは残り人生最初の日。新入社員の皆さん、旅立ちおめでとう。