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「シーザーの妻たるもの疑惑を招くことをしてはならない」。英国にこんな慣用表現がある。シーザーとは有名な古代ローマの英雄だ。公人たるもの配偶者含め清廉潔白でなければならないという意味だそうだ。中国故事なら「瓜田に履を入れず、李下に冠を正さず」となる。

為政者が常に肝に銘じるべき戒めの言葉を、起訴されたトランプ前大統領はご存じだったのかどうか。不倫相手だった女性に支払った口止め料を不正に会計処理した疑いがあり、ほかに30以上の罪状があるとも報じられる。大統領経験者の訴追は米国史上初めて、という枕詞(まくらことば)がなくとも深刻な事態であることはよく分かる。

もっとも本人は「魔女狩りだ」と否定しているようだから、白黒は法廷でつけなければなるまい。懸念されるのは米国社会の混乱であり、分断である。トランプ氏は来年行われる大統領選の有力候補。支持者の抗議活動をあおるような投稿もしている。2年前、暴徒が押し寄せた連邦議会の殺伐とした光景が脳裏をよぎる。

戦火が絶えない世界で、米国がやらねばならない仕事はたくさんある。英語のことわざをもう一つ。直訳は「2匹の犬が1本の骨を取り合えば3匹目がそれをくわえて逃げていく」。つまりは「漁夫の利」であろう。大国の内部がゴタゴタすればするほど、どこかの誰かがほくそ笑むことにならないか。それが気がかりだ。