4/4 坂本龍一さん

日本人で初めてアカデミー賞作曲賞に輝いた音楽は極限の集中のなかで誕生した。映画「ラストエンペラー」のため、坂本龍一さんが制作にかけた時間はわずか2週間。ほぼ不眠不休だった。「地獄のような強行軍で仕上げました」。本紙の取材でそうふり返っている。

亡くなった坂本さんの創造の原点は、幼稚園のころにさかのぼる。ウサギの世話をした体験をもとに詞を書き、メロディーをつけた。「他の誰のものとも違う、自分だけのものを得たという感覚」を味わった(自伝「音楽は自由にする」)。そして東京芸大で作曲について学んだあと、細野晴臣さんらとYMOを結成した。

海外への扉が大きく開かれた。「戦場のメリークリスマス」などの映画にも出演し、多様な要素を取り入れた音楽はたくさんの人を魅了して「世界のサカモト」に。中学時代からデカルトの「方法序説」を手に取るなど哲学にも親しみ、環境や平和問題に取り組んだ。知的な雰囲気は「教授」という愛称がよく似合った。

病と闘いながら創作を続け、アルバム「12」を発表したばかりだった。多くの曲は「一筆書き」のように一気に出来上がったという。抑揚をおさえた旋律と、無駄を削ぎ落とした音が生む美しい緊張感。音楽とともに歩んだ人生が得た境地だろうか。旅立つ求道者の魂に触れたかのように、深い余韻が聴くものの心に残る。