4/6 強権国家との闘い

その論文は祖国の弾圧を逃れた一人の亡命ミャンマー人の依頼から生まれた。応じたのは、朝鮮戦争時に兵役を拒み投獄された経験のある米国人政治学者。タイの雑誌に掲載され、1994年に小冊子となり軍政に抵抗する国内外のミャンマー人の間で密かに回覧された。

ジーン・シャープの名著「独裁体制から民主主義へ」の誕生秘話である。独裁統治の原理を鋭く分析し、暴政・圧政と闘う手法やプロセスを論理的かつ具体的に「198の方法」として記した。後に旧ユーゴスラビアで起きた「オトポール!」や「アラブの春」など、世界の抵抗運動の「教科書」になったことで知られる。

誰が宣伝したわけでもない。いつの間にか30近い言語に翻訳され、ネットや印刷物の形で広まったそうだ。この本を切実に欲した人々がいかに多かったかを物語る。そして21世紀の今、その数はさらに増えているに違いない。英オックスフォード大学の調べによれば、世界の10人に7人が強権的な国家の下で暮らしている。

クーデターで権力を奪ったミャンマーの現政権は、アウンサウンスーチー氏の国民民主連盟を解党に追い込んだ。徴兵を拡大しウクライナ侵攻を続けるロシア、ノーベル平和賞の活動家を弾圧し続けるベラルーシ。閉め切った部屋で、真っ暗な地下室で明日を信じて闘う人々がいる。つないだ連帯の手を我々も離してはなるまい。