4/7 義務と努力

雑誌のエッセーの執筆を引き受けたものの、アイデアが浮かばない。困った。なんとかこの義務を果たさねば。太宰治はそんな苦渋をそのまま随筆にしてみせた。いわく「義務は、私に努力を命ずる。休止の無い、もつと、もつとの努力を命ずる」。

「義務」と題したこの小文によれば「私は、いま、義務のために生きている。義務が、私の命を支えてくれている」。太宰のことだからどこまで本心かは知らぬが、たしかに人はさまざまな義務を負い、それゆえ力を尽くし、工夫を凝らすのだろう。義務と努力のそういう関係は、しかし、法律の世界では趣を異にする。

「自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない」。1日に施行された改正道路交通法に、こんな条文が誕生した。いわゆる努力義務である。義務のために努力をする太宰流ではなく、努力という主観的で曖昧な営為そのものが義務なのだ。同様の規定はいろいろな法律にある。当然、罰則はない。

近所で観察してみたら、ヘルメット姿は20人に1人くらいだった。まだまだ少ないが、いつか風景が一変するかもしれない。日本人はお上や世間の目に弱いのだ。しかし本当は、わが身を守り、家族や恋人を泣かせないための着用である。太宰の言葉をもうひとつ。「愛というのも、結局は義務の遂行のことでは無いのか」。