4/13 犯罪の国際化

カンボジア世界遺産アンコールワットには日本人が残した「落書き」がある。よく知られているのは肥州出身の武士、森本右近太夫一房の墨書。「寛永九年(1632年)初めて此処に来る」と書き出し、4体の仏像を奉納したことなどをつづっている。

この地を仏教の聖地、祇園精舎と考えていたそうだ。幕府が外国との往来を閉じようとしていた時期のこと。「数千里の海上を渡り」のくだりに苦難がしのばれる。遠路たどりついた安堵や異国文化に触れた感動が筆を握らせたのか。落書きはほめられたことではないかもしれぬが、交流の足跡を刻む貴重な史料である。

かくも古き縁があるこの国で、日本人の特殊詐欺グループが暗躍していた。嘘のショートメッセージを送り、電子マネーをだまし取った容疑で19人が逮捕された。この2月にフィリピンを拠点にした一味が摘発されたばかりだ。捜査の手を届きにくくするための海外移転だという。犯罪の国際化に警察も神経をとがらせている。

事件は現地でも報道された。直接の被害者ではないとはいえ、自宅の庭でこっそり悪事を企てる隣人を、かの国の人々はどう見ているのだろう。けっしていい気はしないに違いない。犯罪集団が数千里の海を続々と渡れば、いずれ日本への嫌悪や不信が増すことにならないか。その罪深さはもちろん、落書きの比ではない。