5/5 コロナの厄払い

近所のスーパーに、梅酒づくりに使うホワイトリカーや氷砂糖が並び始めた。風物のすがすがしい季節、店先の目立つ所に菖蒲が顔を出すのもこの時期ならではだ。刀のごとくのびた長く太い葉がりりしい。こいのぼりのイラストが添えてあったのがかわいらしかった。

こどもの日とひとくくりにされがちなきょう端午の節句だが、古くは悪疫退散を祈願する儀礼の日だった。推古天皇が611年5月5日、臣下を率いて「薬猟(くすりがり)」に出かけたと日本書紀にある。生薬になる鹿の角や、菖蒲などの薬草を集めるのだ。旧暦5月はすでに夏。高温と多湿が運ぶ疫病は、そのまま命への脅威だった。

香気の強い菖蒲は、とりわけ邪気を払う力が強いと考えられたようだ。「今後は菖蒲のかずら(頭の飾り)をしない者は宮中に入れてはならぬ」。天平期の8世紀にはそんなお触れまで出た。今風に言うなら薬草のフェースガードか。湯船に入れたり、軒にかけたり。千年余にわたり息災の祈りに寄り添ってきたのだろう。

令和を襲った疫病も長いトンネルを抜けようとしている。連休明けからはいよいよ「普通の病気」だ。怖がりすぎず油断もせず、社会経済を回していくことになろう。日本酒メーカーのサイトに菖蒲酒のレシピが載っていた。根元をそぎ切りにして杯に放つ。試すと爽やかな香りが鼻に抜けた。厄を払って、前へ進みたい。