5/6 武器をもたない人たちの記憶

休日で人が行き交う靖国通りから横道に入り、「しょうけい館」(東京・千代田)を訪ねた。太平洋戦争で負傷した人の資料などを展示するこの施設に来ると、戦いが何をもたらすのか知って慄然とする。いまは企画展「戦傷病者を支えた女性たち」を開催している。

テーマの一つが、戦地の病院などで救護にあたった「従軍看護婦」の体験記だ。命の危険と向き合いながら彼女たちが目の当たりにした光景が、誇張を排した表現でよみがえる。勇ましい戦いの物語よりも、武器を持たない人びとの証言のほうが戦争の実像を私たちに伝えてくれることがある。子どもたちの体験もまた同様だ。

「ぼくたちは戦場で育った」(ヤスミンコ・ハリロビッチ著)はボスニア紛争のもとで幼少期を過ごした人の証言集だ。地下室で友情を育む様などが心を打つが、辺りを覆っていたのはやはり死の影だ。「恐怖、恐怖、また恐怖。血、血、さらに血」。彼らの見た「すさまじい地獄」はいまもこの地上から消えていない。

日本人が連休を過ごしているさなかに、遠いモスクワでは大統領府がドローンで攻撃されて衝撃が広がった。真相について様々な説が飛び交うなか、ロシアは報復をちらつかせる。だがウクライナの民の命を奪い続けたこの戦争も、いつかは終わる日が来る。そして痛ましい記憶の数々が、侵略者をいつまでも裁き続ける。