5/16 優越的地位の乱用

テレビでよく見る歌手や俳優が、ある日を境に画面から姿を消す。「干された」のだ。芸能事務所が、独立したタレントを出演させないようメディアに働きかける業界用語だ。辞めた者を使うのなら、うちのタレントはもう出しませんよ。長くそんな慣行があったと聞く。

4年前、公正取引委員会が一石を投じる。ジャニーズ事務所に対し、退所した芸能人を出演させないようテレビ局に圧力をかけた場合は、独占禁止法に抵触するおそれがある、と注意したのだ。これは市場の公正な競争、という経済の根本的な問題だ。法が禁じる「優越的地位の乱用」にあたる、と業界に警鐘を鳴らした。

対人関係でも社会的地位を背景に、不当な影響力を行使する場合がある。それが大人の未成年に対する性的加害なら話は深刻だ。ジャニーズ事務所に所属していた男性がジャニー喜多川前社長(故人)に性的被害を受けたことを明らかにした問題で、同社はホームページで謝罪した。が、事実関係については明言を避けた。

性的な目的で未成年を手なずけることをグルーミングと呼ぶ。露骨な暴行や脅迫はないが、親身な指導などを口実に、性的行為に誘導する手口である。相手は業界の伝説の大物だ。声を上げたら、不利益を被るかもしれない。言葉巧みに手なずけられたのは、アイドルを夢見る若者だけだったのか。何とも重い問いが残る。