5/14 命賭けの出産

生涯で10人を超える子を産み、育てた与謝野晶子がお産のつらさを書き残している。6度目は双子だった。「産褥の記」によると、「飛行機のような形をした物」がおなかから胸へ上る気がし、窒息するほどに苦しんだ。7、8日間はまったく一睡もしなかった、とある。

自身が病院で出産するのははじめてだった。見守る医師や看護師に心強さを感じつつ、死をも意識したという。悲壮感ただよう心情をこう詠んだ。「生きて復かえらじと乗るわが車、刑場に似る病院の門」。さらには、子どもを産まず、女性を見下すような男を、「命を賭けないくせに」とののしった。さも激情の人である。

我が身を重ね、共感する女性もいるだろう。医療が進歩しようとも出産が一大事であることに変わりはない。命を賭けるという表現は大げさではないのだ。日付も呼び方も違うが、世界各地で母親に感謝を伝える日が定められているのは当然であろう。米国を由来とする日本では5月の第2日曜日、きょうが「母の日」だ。

ちなみに1世紀ほど前、日本の人口は年に数十万人のペースで増えていった。「女性=母」の発想を批判する晶子は、「この多産の事実について厳粛に反省せねばならない」(「母性偏重を排す」)とも書いている。いま、同じ斜度で坂を下る私たちを見て、彼女なら何を語るだろうか。ちょっと聞いてみたい気がする。