5/27 権力者の館

「かがやかしき大夜宴開く」「朝夜の貴顕淑女三千名参列」。本誌の前身、中外商業新報はそのときの光景をこんなふうに伝えている。1928年12月12日、昭和天皇の即位を祝い、首相官邸で開かれた「大奉祝夜会」の模様だ。話題沸騰のイベントだったらしい。

パーティは、永田町に新築した首相官邸のお披露目も兼ねていた。記事には「ライト式のモダーン新官邸があかあかと闇空に浮き出し」などとある。フランク・ロンド・ライトが設計した旧帝国ホテルを思わせる威容に、賓客も息をのんだに違いない。やがて戦争、戦後。この歴史的建築はいまも首相公邸として命脈を保つ。

そんな空間を舞台に、こちらの「夜会」の出席者も興奮を抑えられなかったようだ。岸田首相の長男で秘書官の翔太郎氏が、昨年末に親戚らと公邸で忘年会を開き、写真撮影に興じていたと「文春オンライン」が報じた。公邸の階段に組閣時みたいにずらりと並んでみたり、寝そべってみたり、うーん、どうにも頂けない。

この建物の最初のあるじとなったのは、政友会の田中義一である。「おらが、おらが」が口癖の宰相は、官邸の玄関を見回していわく「まるでカフェーのようじゃのー」(御厨貴著「権力の館を歩く」)。それで人々は官邸を「カフェーおらが」と呼んだ。世間は今も昔も権力者に目を凝らしている。見くびってはならぬ。