6/18 仕事のやりがい

「課長、ヤリガイお磨きいたします!」。背中に大きな貝を生やした若手社員が上司の背中にとっついた貝をキュッキュとふき始める。自分のに比べてずいぶん小ぶりだが、実直そうな彼は気にしない。1985年ごろに流れていた求人誌のテレビCMである。

キャッチコピーは「大きくしたいな、あなたの、ヤリガイ。」。たわいない駄洒落だが、今見返すとなかなか味わい深い。時代はちょうどバブルの入り口。終身雇用が当たり前で非正規社員は少数だった。86年に法律ができ派遣の職種が広がる。転職誌も次々と創刊された。労働市場が流動化へと大きく動いた時期だった。

仕事のやりがいって何だろう、と多くの人が立ち止まって考えた。この「働きがい」を今風に言い換えたのが「エンゲージメント」だ。先日、役員報酬を従業員のエンゲージメントに連動させる企業が現れたと本紙報道で知った。なぜ、何のために一緒に働くのか。こと改めて確認し意欲を高めなければ社員は離れていく。

それだけ働く側の選択肢が増えたという証左でもあるのだろう。だれもが背中の貝の大きさを思い浮かべながら、自分にふさわしい居場所を探している。ちなみにCMの課長さんのヤリガイは、磨かれているうちにポキッと折れてしまう。社員は大慌てするのだが、本人は全く気づかない。こんな上司、昔はよくいたよな。