6/17 失われないアーティストの魂

ビートルズの解散後、何をすればいいのかわからずに、落ち込んでいた。ポール・マッカートニーはかつて英BBCの番組で、音楽そのものをやめようとさえ一時思ったと告白した。ずっと一緒だった仲間たちとの別れも響き、酒におぼれることすらあったという。

当時の妻のリンダの励ましもあり、活動を再開することができた。メンバーのジョン・レノンもソロ活動でファンを魅了し続けたが、名盤「ダブル・ファンタジー」を発表して間もなく凶弾に倒れた。音楽史に名を刻んだこの2つの才能が、解散から50年の時を経ていま再び「共演」することになった。

BBCのラジオ番組で最近、ポールが「ビートルズ最後のレコード」をリリースすると発表した。人工知能(AI)を駆使し、レノンが残した音源から声を抽出して完成させたという。「ポールへ」とのラベルを貼ったカセットテープに入っていた曲という。盟友に託した歌声が、もうすぐ私たちのもとに届く。

20世紀のドイツの哲学者、ヤスパースは「身近な人の死」について考察し、「破壊されるのは、現象であっても、存在そのものではない」と記した(「哲学」)。私たちの心に寄り添うアーティストの魂は、いつまでも失われない存在の象徴だ。よみがえったビートルズの音楽は、混迷する時代をどう照らすだろうか。