6/28 中世の動乱とワグネル

先日からインターネット上に「御所巻」なるワードが飛び交っている。室町時代に大名たちが将軍の邸宅を取り巻き、あれこれ要求を突きつける騒ぎをこう呼んだという。受験生必携の山川出版社刊「日本史用語集」にも載っていない、マニアックな言葉である。

それがトレンド入りしたのは、あの騒動のせいだ。ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏が起こした武装蜂起を、御所巻になぞらえているのである。たとえば、足利尊氏の執事の高師直は1349年、尊氏の弟の直義の追放を求めて将軍邸を包囲した。この出来事など、確かに今回の事件を彷彿とさせる。

反乱軍は土壇場で引き返し、流血の「モスクワ巻」には至らなかった。ひとまず衝突は避けられたが、進行している事態は中世の動乱さながらである。メンツを傷つけられたプーチン氏はどう出るか。あれほど息巻いていたプリゴジン氏やワグネルの兵たちは……。そもそも16カ月に及ぶウクライナへの侵攻が異様なのだ。

口さがないネット空間の人々は、こんどの出来事を往年の実録ヤクザ映画に重ねてもいる。幹部との確執が高じて親分に矛先を向けた武闘派。そこに割って入り、まあまあと説得に努めたルカシェンコのおじきが当面は身柄を預かるという場面だろう。なんとも大時代だが、そういう感覚の無法がいま繰り広げられている。