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カリブ海に浮かぶ旧英領の島国バルバドスは、日本の種子島ほどの大きさに約29万の人々が住む。その国がこのほど、エリザベス女王国家元首にする立憲君主制から共和制に移行したという。女性の初代大統領は式典で「わが国は初航海に乗り出した」と述べたそうだ。

王室との関係を見直し、かつての帝国による支配を克服しようとの狙いがあるらしい。昨年の欧米での反人種差別の運動は、植民地時代の批判にも及んだ。その影響もあったと聞く。実は、この国、文明の歴史にとって、重要な場所だ。英領となった17世紀半ば、アフリカからの奴隷によるサトウキビ栽培が始まっている。

沿岸部に農園が次々とでき、周辺の島にも及んだ。英国はじめ欧州に送られた製品は喫茶の習慣を支え、伝統を形作った。やがて、産業革命が進むと工場主は働き手に、休憩中はビールではなく砂糖入りの紅茶を飲むようすすめたという。まず職場の規律が保たれる。カフェインが疲れをとり、カロリーも補えるからである。

砂糖が一役二役も買った工業化の前線にいま我々は立っている。そして環境に負荷をかけた結果「産業革命前より気温の上昇を1.5度以下に」との難題に直面する。新技術の開発はもちろん最優先だが、小さな島国の決断を機に、この何世紀かの歩みを振り返っても損はあるまい。かなり苦いかもしれないが。