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中国のSF小説として初の世界的ヒットになったのが2008年に出版された「三体」だ。宇宙人が地球に攻めてくる物語だが、きっかけを作ったのは地球側の科学者だった。人間の愚かさ、残酷さに絶望した科学者が信号を送り、この星の存在を知らせてしまうのだ。

人類なんて異星人に支配されろと科学者が思いつめる原因に、作者が選んだのは文化大革命だ。英語版は原稿通り文革の陰惨な光景を冒頭に置いたが、中国版は後ろに移し印象を薄めた。政治社会状況からの苦肉の策と邦訳の解説にある。それまで当たり前だった文革批判がはばかられ始めた点に、中国の変調を感じた。

ゲーム、アイドル、通販など現代文化や派手な消費が中国で敵視され始めた。風紀を正し成功者を見せしめにするだけが目的か。ニューズウィーク日本番の特集「文化大革命2.0」はファン活動の危険性にふれる。ネットでの連帯やスターの応援が、自由な政治活動の下地になると警戒したのでは。そんな読みも成り立つ。

文革から10年ほど後、その悲惨さを描く映画「芙蓉鎮」が公開された。商売の成功ゆえに糾弾され、不本意な運命に翻弄される女性を同じ立場の男性が励ます。「ブタのように生きぬけ。牛馬となっても生きぬけ」。風向きは変わる、それまで黙々と耐えよと。似た思いでいる企業家や言論人がいないか、案じられる。