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角界で俗に言う「ちゃんこの味がしみてきた」なんて言い回しがある。入門した力士が厳しい稽古を積んで番付を上げ、独特のしきたりにも慣れてきた様子を言う。いわば心技体がじわじわ充実しつつある感じだろうか。お相撲さんの成長をほめたたえる言葉のひとつだ。

脱税容疑で逮捕された日本大学の前理事長、田中英寿容疑者は、土俵を沸かす現役力士らの師匠の師匠、いわば大師匠のごとき存在である。関取らが巣立った強豪校の相撲部の監督が日大時代、田中容疑者に指導されているのだ。味がしみて、白星を重ねるつわものを育てる秘訣が、教え子に受け継がれているのだろう。

だが、そんな人づくり、組織づくりの経験は残念ながら大学の運営には生かされなかったとみえる。日大は約8万人の学生に10万人超の志願者、国から昨年度は90億円の助成を受ける公器中の公器である。トップが取り巻きから供与された疑いのある現金の原資は、大学の工事費の水増し分などとされる。禁じ手の最たるものだ。

大学は9月の強制捜査以来、初の記者会見を開いたが、これも13年に及ぶ「田中支配」によるガバナンス不全の結果か。容疑者の自宅に併設されるちゃんこ店には、大学幹部や業者が頻繁に出入りしていたらしい。ゆがんだ統治の象徴だったようだ。えぐい味のしみた面々を一掃して初めて再生への取り組みの軍配が返る。