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大正の終わりごろ、秋田県から上京して当時の日本大学専門部に入学した青年がいた。柔道部で名を上げ、そのまま大学職員となって頭角を現し、戦後のこの大学に君臨した古田重二良会頭である。日本一のマンモス私学を築いた剛腕には誰も抵抗できなかったという。

ワンマン体制が崩壊するきっかけを作ったのは、税務当局である。1968年4月、東京国税局の調査で20億円にも上る使途不明金が発覚し、事務職員の自殺や失踪が相次ぐ。折から全国で学園紛争が燃えさかっていた時期だ。無風だった日大でも学生が決起し、権勢をほしいままにしていた人たちは力を失っていく。

きのう、東京地検に脱税容疑で逮捕された田中英寿理事長は現代版の古田会頭だろう。青森県の農家の出身。日大に入って相撲部で活躍。大学に残り多くの選手を指導しつつ、トップまで上りつめた。先人の軌跡をなぞるように歩んだ揚げ句、やはり税をめぐる不正で失墜に至る。自宅からは巨額の現金が見つかった。

こんどの事件は元理事らの背任から始まっている。それもこれも大学として徹底的に調べ上げるべきなのに、自浄の機運が乏しいのはどうしたことか。いまも変わらぬ組織の病弊と言ってしまえば簡単だが、かの会頭は学生との団交に応じ、いったんは退陣を表明した。半世紀後の理事長は姿さえ現さず、拘置所に消えた。