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年の瀬が迫ると耳に届く「火の用心」の掛け声。この言葉が広く使われるようになったのは江戸時代だという。都市化が進み大火が相次いだ。大阪で最悪の被害だとされる「妙知焼け」(1724年)では、市中の3分の2にあたる約1万千軒が焼失した(新修大阪市史)。

時代を経て木造から鉄筋コンクリートに移っても、猛威をふるう火は恐ろしい。そのことをまざまざと知らしめた。大阪・北新地で起きた火災で、20人以上が亡くなった。出火元となったクリニックには多くの患者がいたようだ。みな我が身の健康を願っていたに違いない。ただただ、痛ましいというほかない。

警察が放火と殺人の疑いで調べている。男が液体入りの紙袋を蹴飛ばして引火した、との目撃証言があるという。それが事実だとして、いったいなぜ。誰もの頭に浮かぶであろう疑問への答えは、捜査を待つしかない。現場は不特定多数が頻繁に出入りする雑居ビルである。避難経路や防火態勢の検証も必要になるだろう。

2年前の悪夢を思い出す。京都アニメーションの事件では36人が犠牲になった。東京の電車内の惨事も記憶に新しい。平穏な日常を狙う、悪意を帯びた炎を防ぐにはどうすればいいのだろう。「人にも用心」。くだんの掛け声にこうつけ加えるしかないのだとしたら、何ともやりきれない。