1/7 外国旅行での異文化体験

仰々しく紙の外箱に納められた4冊の本。といえば愛蔵版の長編小説みたいだが、なんと海外旅行のガイドブックである。その名も「外国旅行案内」(日本交通公社刊)。昭和30年代後半、海外がはるかに遠かったころの匂いが、黄ばんだページに染みついている。

まずは「総論」から始まり、飛行機の乗り方や外貨の注意点、レストランのメニュー例、各国観光スポットの解説などなど情報てんこ盛りだ。トラベラーズチェックの見本も折り畳まれている。これでは行く前から疲れてしまいそうだが、こういう時期を経て、日本人はすこしずつ異文化体験を重ねていった。

いまや海外旅行はとてもカジュアルになったのに、もう2年近く、多くの人は渡航できないでいる。前日はある大型書店の棚を見て驚いた。百花繚乱だった海外ガイド本が隅に追いやられ、それも古い版ばかりだ。気軽に外国を訪ねる機会の損失は、内向きになりがちな島国のわれらにとってとりわけ影響が大きかろう。

いちばん旅がしやすい学生時代を巣ごもりで過ごす若者たちの屈託を思う。しかし、いずれは溜まっていたエネルギーが新たな旅文化を生むに違いない。かつて小田実さんは「何でも見てやろう」を書き、五木寛之さんは「青年は荒野をめざす」を世に問うた。かの「外国旅行案内」の身構えを超え、世界を歩いた物語である。