1/23 政治と暮らしと科学

地球に向かって重たい星が近づいてくる。人類の危機を描く60年前のSF邦画大作が「妖星ゴラス」だ。日本が提唱し全世界が協力、南極にロケット式の推進措置を多数つくり、地球を動かして衝突を避けようと試みる。実現可能か、専門家に考証を依頼したそうだ。

危機が遠い段階で科学者の説明を受けた首相が、こう語る場面がある。「我々に発言する資格はない。政治家は科学者に席を譲るしかないでしょう」。政治は対立を捨て科学を重んじ、国民も政府を信頼して世界は団結する。「さよならジュピター」「アルマゲドン」など内外のこの手の映画が同じ構図で感動を誘ってきた。

もし現実ならこううまくいくか。そんな疑問に答えた映画が、最近公開された米コメディ「ドント・ルック・アップ」だ。彗星の飛来を予測する科学者を、選挙が気になる大統領は邪険に扱う。爆弾で軌道をそらすより資源として利用を、と起業家が横やりを入れる。テレビで危機を訴える科学者を司会者がおちょくる。

衝突の日が近づいても現実から目を背ける人々も描く。観客はそこに自分の姿を見いだすしかけだ。気候変動をめぐる危機感の薄さ、動きの鈍さが企画の出発点だったと監督は語る。温暖化や新型コロナなど、政治や暮らしと科学的予測が不可分な時代になった。往年のSFが理想として描いた信頼関係を取り戻せるか。