3/29 アカデミー賞発表

その瞬間、米ロサンゼルスの授賞式会場にいた出席者が立ち上がり、一斉に両手をひらひら揺らして祝意を示した。映画の祭典アカデミー賞の作品賞を受賞した「コーダ あいのうた」。複数のろう者俳優が主演を務める初のハリウッド映画へ手話で拍手を送ったのだ。

その一人、マーリー・マトリンは35年前にアカデミー主演女優賞を受賞後も、長くろう者に対する偏見や無理解と戦った。耳の聞こえない判事を演じたときは、手話通訳者の不在を指摘し役を下ろされた。一つの文章を伝えるのに多様な方法があるという、手話の豊かな表現に初めて光を当て、この映画は広い共感を集めた。

ときに政治的過ぎると批判もされるが、オスカーは今年も力強く連帯を訴えた。迫害を恐れ母国ロシアを離れた監督によるアニメ「FLEE」はアフガン難民の物語だ。英国のすさまじい人種差別を描く12分の作品が短編映画賞を受賞。ウクライナへ支援を呼びかけ、自国の先住民族の言葉であいさつをする受賞者もいた。

違いを認め合う困難とそれに立ち向かう人間を映画は描く。国際長編映画賞に輝いた濱口竜介監督の「ドライブ・マイカー」も韓国手話を劇中に取り入れた。「理不尽な状況に打ちのめされず声を上げ続ける」。マトリンの言うようにオスカーもまだ理想像にはほど遠い。それでも多様な声に耳を傾け続ける先に未来がある。