1/24 ドライブ・マイ・カー

カンヌ映画祭に続き米国で数々の批評家賞を受賞、3月に決まるアカデミー賞でも有力候補という。濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」を遅ればせながら映画館で見た。劇中劇のかたちで主人公の心情を代弁する「ワーニャ叔父さん」の台詞が心にしみた。

「泡と消えた人生!」「ああ、気が狂いそうだ」「母さん、僕はもうダメです」。チェーホフの名戯曲には、人生を棒に振った中年男の悔恨と絶望の嘆きがあふれている。ヤケを起こして正気をなくし、ついには拳銃を振り回す。いつしかその姿はスクリーンを抜け出し、現代の光景と二重写しになって見えた。

「人生を終わらせてほしい」「死刑にしてくれ」。昨年来、いくたび同様の叫びを聞いたことか。無関係な人々を巻き込んで、自分のみならず他人の人生をも終わらせようとするおぞましい犯罪。許せない、と憤ってみても「拡大自殺」という今風の言葉でくくってみても、彼らが抱える闇を理解したことにはならない。

せめて絶望という言葉に寄り添う言葉はないものか。ワーニャには心優しい姪が語りかける。「生きていきましょう。長い長い人生を、長い夜を生き抜きましょう」(浦雅春訳)。映画の主人公には悲しみを潜った人との交感がある。もちろん人生は映画のようにはいくまい。それでも、と寒空の下ドラマの余韻に身を沈めた。