2/1 1票の格差

「要するに最初からなかったことにする、ということです」。学生時代に法学の初歩を学ぶ講義でのこと。先生が「無効」という言葉について解説したことを、かすかに覚えている。例えば売買契約が無効になれば買い手は商品を、売り手は代金を返還する必要がある。

元の状態にリセットする。これを原状回復義務と呼ぶそうだ。でも、国政選挙の結果を無効にすることは可能だろうか。当選した議員は、国会で法律や予算を議決している。医療や教育の予算は執行され、すでに国民の生活を支えているのだ。もしこれをなかったことにしたら。私たちの社会は大混乱する。

「1票の格差」が最大2.08倍だった昨年10月の衆院選違憲だとして、弁護士らが選挙の無効を求めて全国の高裁に訴訟を起こした。その判決が、きょうの高松高裁を皮切りに各地で言い渡される。これまで同種訴訟で裁判所は「格差が2倍未満かどうか」を合憲の目安としているようだ。今回は、どんな判決を下すのか。

最高裁判決はしばらく先だ。が、過去の国政選挙を違憲としても、無効と断じた例はない。それゆえか。抜本的な格差是正の歩みは遅い。衆院小選挙区を都市部で10増やし、地方で10減らす案に対し、「迷惑な話」との本音も聞こえてくる。将棋の千日手のように、違憲訴訟と小幅な定数見直しが繰り返されるのだろうか。