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切手やコインを商う40歳の男性が、ひょんなことから自民党公認候補として川崎市議会補欠選挙に出馬する。人脈も後援会組織もない。政治の素人が展開するドブ板選挙にカメラを向けたのが、07年に公開されたドキュメンタリー映画「選挙」だ。

小泉純一郎政権の時代だ。落下傘候補は街頭で、ひたすら「改革」を連呼する。夫人も選挙カーに乗り、「候補者の家内」ですと頭を下げる。陣営のベテランが、「妻」でなく「家内」と名乗るよう指南した。夫を立てる響きが好ましく、「おっかない家内です」のだじゃれが有権者に受けたりするからだ。笑ってしまう。

台本はなく、作品のテーマや落としどころも決めない。行き当たりばったりで、ひたすらカメラを回す。監督は「観察映画」という言葉を世に知らしめた想田和弘さん。世界的な評価を得た映画人が新たな観察の対象にしたのは、在外邦人が最高裁裁判官の国民審査に投票できない現行制度だ。違憲訴訟の原告になった。

最高裁はおととい、国民審査権は選挙権と同様に憲法が保障する国民の権利だ、と判示。訴えを認めた。世界中に投票用紙を配るのは難しい。そんな国側の弁明を退け、立法の不作為を批判した。在外邦人の審査権が損なわれたとしてもやむを得ない。無理筋の台本にダメ出しをした観察映画の先達に憲法の番人が応答した。

 

在外邦人に国民審査権による最高裁裁判官の投票権が与えられていないことに対して訴えを起こした裁判でおととい最高裁は原告の訴えを認める判示を出した。世界中に投票用紙を配るのは難しい、という国の弁明を退け、立法の不作為を批判した形だ。ちなみに原告は「観察映画」という言葉を世に知らしめた想田和弘さん。07年に公開されたドキュメンタリー映画「選挙」は世界的にも高く評価された。そんな観察映画の先達からのダメ出しに憲法の番人が応答した。