2/3 ブルシットジョブ

「しない方がいいと思います」。この名言で知られるバートルビーは、米文豪メルヴィルが生み出した中篇の主人公だ。ウォール街の法律事務所に勤める書記だが、ある日突然、上司のあらゆる指示を拒みだす。動機は全くの謎。長く哲学者や作家の論争の的となってきた。

先日「アンチワーク」という米国での運動を知り、バートルビーの面影を思い浮かべた。望まない労働を拒むという振る舞いが似ているせいではない。「働く」ことは人間の精神、モラルと深く関わるという問題の本質においてである。アンチワークを標榜する人々も、バートルビーも、もとは勤勉誠実な労働者なのだ。

ただ、誰の役にも立たない、社会にとって自分の仕事は無意味だと自覚しながら、人は働き続けることはできない。心の深いところが病んでしまう。文化人類学者のデヴィッド・グレーバーはそんな現代の仕事群を「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」と名付けた。皮肉にも、技術が進むほど増殖するという。

過激なネーミングが脚光を浴びるのは、コロナで対極にあるエッセンシャルワーク(必要不可欠な仕事)に社会が目を向けたおかげでもあろう。見守り、声をかけ、世話し、寄り添う。他者を思いやる仕事群である。グレーバーは労働とは本来「生産」ではなく「ケア」だとも語った。働き方を考えるヒントがここにある。