2/10 熊本産アサリ産地偽装

江戸前」といえば、古くは東京湾の奥、品川から深川あたりの沖を指した。手元の地図で見ると驚くほど狭いが、江戸っ子はこの海でとれた魚介類をありがたがった。物流や保存技術も今とは比較にならない時代。少しでも新鮮な魚を食べたいとの思いもあったろう。

それゆえ産地を偽る不正も横行していたようだ。こんな川柳が残っている。「旅鰻(うなぎ)化粧につける江戸の水」。旅鰻とはよそでとれたウナギのこと。江戸前より味は落ちるとされ、売値は安かった。とはいえ同じ魚である。「江戸産を名乗ってもバレないのでは…」。悪知恵を働かせた人がいたとしても、不思議ではない。

「熊本産」アサリの産地偽装疑惑もその延長にあるのかもしれないが、驚くべきは規模である。農林水産省が調べたところ、県内の年間漁獲量に20トン余に対し、100倍以上が流通していたという。大半が中国などからの輸入品とみられている。ついうっかり、ではあるまい。さぞ大量の化粧水が使われたのではなかろうか。

気になることがある。背景としてアサリの漁獲減が指摘されていることだ。全国的な傾向と聞く。乱獲や環境の変化などが言われるが、理由ははっきりしないそうだ。江戸の川柳をもう一句。「初がつお初がつおとてまだ食わず」。売り声を聞けども高価すぎて口にできない初ガツオのようにならないか。それが心配である。