2/20 銀座東芝ビル

小津安二郎監督の「東京物語」に、上京した老夫婦が義理の娘と都心を巡る場面がある。銀座で百貨店の屋上に立つと遠くに国会議事堂、手前に重厚感のあるビル。「モダンボーイで銀座っ子だった」(川本三郎著「銀幕の東京」)小津が選ぶ都会らしい風景といえる。

東京の顔のひとつだったこのビルはすでに無い。昭和初めに建てられ、当初はマツダビル、後には銀座東芝ビルと呼ばれた。マツダ東芝の祖業であり看板商品だった電球の名称「マツダランプ」に由来する。1階にショールームを設け、屋上からは探照灯の光が夜空にのびる。銀座を歩く人々に東芝の技術力を見せつけた。

その東芝が会社の分割を含む大がかりな変身の最中にある。エレベーターや空調といった事業と並び、照明事業を担うグループ会社も売却が検討されているという。映画に登場し、改装を重ねて一時は本社機能も置いた銀座東芝ビルも、十数年前に土地ごと別の企業グループに売り渡され、真新しい商業施設が建っている。

電機業界では米ゼネラル・エレクトリック(GE)、欧州のフィリップスも近年、リストラの一環で祖業の照明事業を手放した。東芝もこの流れに沿ったといえばそれまでだが、これが企業経営の厳しさか。「照明事業130年の歴史」「日本の電球の歴史は東芝から」。ウェブサイトの誇らしげな文言が胸に迫る。