3/3 琥珀の国

琥珀には地味なイメージがある。しかしジェームズ・A・ミッチェナーの小説「ポーランド」(工藤幸雄訳)では詩人があめ色の宝石をたたえる。目に痛むダイヤモンドの輝きやこれ見よがしの黄金の厚かましさがない。「秋の穂波の上にかかる月の光」のようだ、と。

針葉樹の樹脂が何千万年もかけて化石化したもので、ロシアを含むバルト海沿岸は有数の産地だ。ポーランドでは身につける人を守り、体の痛みを癒やすと信じられているという。手触りが柔らかく、彫塑がしやすい。華やかではないけれど、ぬくもりがある。傷心のウクライナの人々を迎えたのも、この琥珀の国だった。

ロシア軍の戦車や爆撃を逃れてきた多数の難民を、ポーランドは入国時のPCR検査や国鉄の乗車料金なしで受け入れている。国境付近に食料を手にしたボランティアが待ち構え、自宅で保護する人もいるそうだ。列強の侵略にさらされてきた歴史、旧ソ連による民主化弾圧の悪夢がそれだけ強烈に心に刻まれているのだろう。

隣国侵攻の蛮行に及んだプーチン大統領も、市民の連帯にうろたえているのではないか。宝石にはにせものがつきもの。琥珀を見分けるヒントは「太陽のスパングル」と呼ばれるひび割れと聞いた。長い間、地熱で熱せられ冷やされた結果てきあがる。優しいだけではない、強さを内に秘めた宝石は、市民にこそふさわしい。