1/30 外国人を見る目

日本文学研究家のドナルド・キーン氏は今から60年あまり前、日本人が外国人に接するときの態度を、ちょっと辛口に論評した。「日本人は彼らを美化したり軽蔑したりする傾向があるが、それはふつう相手の国籍次第である」(「生きている日本」足立康訳)

10年ほど前に、東北地方の加工場で働く中国人を取材した。彼女のICレコーダーには、社長らしき人物との生々しいやりとりが録音してあった。「日本人は正月休む。なぜ私たちは休めない」「言われた通り働け」「休みたい」「なら帰国しろ」。同じ社会に生きながら、日本人の多くが知らない「密室」がそこにあった。

岡山県の建設会社で働いていたベトナム人技能実習生が、日本人の従業員に職場で暴行や暴言を受けていたと訴えた。虐待は2年にもわたり、骨折などのケガをしたという。密室の中での外国人に対する不当な扱いは、過去の話ではない。古川禎久法相は「人権侵害は決してあってはならない」と是正を求めた。

キーン氏は後年、「生きている日本」を執筆した当時のことを「経済的な大発展を予測していなかった」とふり返った。その賛辞を今や昔のことと懐かしむこの国の産業の現場を、アジアを中心とした外国人も支えてくれている。くり返されるトラブルを、どうしたらなくせるのか。キーン氏の嘆きが聞こえてきそうだ。