3/28 聴衆のヤジ

戦後の宰相、吉田茂の三女、麻生和子さんの随筆「父 吉田茂」は、互いに憎まれ口を交わす親子ならではのエピソードが満載で実に楽しい。マッカーサーに「わが国の統計が完備していたならば、あんな無謀な戦争はやらなかっただろう」と語った逸話も紹介する。

憲法下での総選挙で吉田は父の出身地、高知県から出馬した。居宅から遠い地のほうが冠婚葬祭の付き合いをしなくてすむ。そんな理由もあったと和子さんは明かす。演説の際、コートをまとった吉田に聴衆が「外套をとれ」と叫んだ。「外套を着てやるから、街頭演説です」。見事に切り返し喝采を浴びたという。

戦後の自由な空気が伝わり、ほほ笑ましい。一方、こちらは笑えない話だ。2019年の参院選の期間中、札幌市で街頭演説していた安倍晋三元首相に、聴衆がやじを飛ばした。すると警察官が排除したのだ。男女2人が慰謝料などを求めた訴訟の判決で札幌地裁は、表現の自由を侵害したと指摘。北海道に賠償を命じた。

議会で品位を欠くやじを飛ばす議員がいる。でも、自分が批判されると相当、腹立たしいものらしい。あの吉田も「バカヤロー解散」を招いた。ロシアでは、街角で「戦争反対」を訴える市民が当局に拘束されている。暴言はよろしくない。が、言論には言論で、の原則は守りたい。強権国家の横暴を批判するのであれば。