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米ニューヨークからのえりすぐりの名画が並ぶ東京都内の「メトリポリタン美術館展」に足を運んだ。「西洋絵画の500年」と副題にある通り、時代を彩った数々の逸品のなかで、何点かある「聖母子」に引きつけられた。まだ幼いイエスを抱くマリアが描かれている。

うつむき加減のマリアは、子の行く末を知っているかのように、どれも悲しげな面差しである。描かれた15〜17世紀という時期を思い合わせるなら、絵筆をとった俊才らは、収まらない戦乱や疫病、災害への人々の不安も、母の憂い顔にこめたのではなかろうか。21世紀の今も作品は、世の切なさを語りかけてくるようだ。

きょうは「母の日」。2年以上続くコロナ禍に加え、ロシアのウクライナへの侵攻もあり、子どもの命を守ろうとする母親の懸命な願いと行動に世界中が改めて心を寄せていよう。明るい灯の下で贈り物を手に笑顔の母がいる一方、戦火を避けるべく子と重い荷を抱え、祖国を逃れようとする母のいることを忘れまい。

もともと「母の日」は南北戦争後に、元の敵同士をピクニックなどで融和させる試みにさかのぼるらしい。つまり、反戦と平和を願う行事だったわけだ。兵士ひとりひとりにも母がいる。それぞれの母にとって、かけがえのない子らが、武器を手に傷つけ合うとは。憂いが晴れ、笑顔が戻る日は、いつくるのだろう。