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垣谷美雨さんの小説「うちの父が運転をやめません」は、死ぬまで運転すると言い張る郷里の親に、東京暮らしの息子が手を焼く話だ。80歳を目前に車に擦り傷を重ねても「事故を起こすのは老人だけやない」と突っぱねる。説得に窮する息子の姿が、我が身に重なった。

75歳以上の免許更新の新制度が、きのうスタートした。目玉は「実車試験」で、一定の違反歴がある人に実技テストが課される。警視庁の免許試験場で試走の様子を見た。勢いよく段差に乗り上げたとき、すぐブレーキを踏む。赤信号や一時停止できちんと止まる。全部で6つの課題は、さほど難しくはなさそうに映った。

当局も「お年寄りから免許を取り上げる趣旨ではない」と説明している。厳しくしすぎると本当に車が要る人が困るということか。ともあれこれで即、事故撲滅とはいくまい。いまだ車優先の交通インフラ、高齢者の孤立、地域間格差。事故の背景には構造問題がさまざまにひそむ。警察に任せっぱなしで済む話ではない。

小説では息子と父が交流を深め、それが父をじんわり変えていく。垣谷さんに思いを聞くと「高齢ドライバーの問題は、単に運転の巧拙でなく、超高齢化社会をいかに安全に維持するかが問われているのでしょう」。運転を見直せばライフスタイルも変化する。免許更新をきっかけに、ゆっくり老親と話してみてもいい。