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人類は長い間、天然痘(痘瘡)との闘いをくり返してきた。医学者の富士川游が明治末に著した「日本疫病史」ではこの疫病について多くのページを費やし、8世紀の天平年間から近世までの苦難を克明につづる。記録にあるだけで、流行は60回近くに及ぶという。

江戸期だけ見ても、1619年、54年、79年、82年、1702年、08年、09年…。間隔はだんだん短くなり「遂ニ連年絶エズ、小流行ヲ見ルニ至レリ」。災厄は果てしなく続いたが、18世紀末、英国のジェンナーが種痘を開発して時代は終わる。約200年後、世界保健機関(WHO)はついに根絶を宣言した。

ウイルスという魔物は、しかし油断もスキもない。天然痘は地球から消えたのに、それに似た「サル痘」の患者が欧米などで相次いで見つかっている。もっとも、かの兄弟分に比べれば感染力は弱く、ほとんどが軽症というから冷静に推移を見たい。かつて日本でもみんな打った天然痘ワクチンがこちらにも効くそうだ。

わが二の腕の接種痕は見えなくなってしまったが、いまも免疫は残っていようか。日本で種痘が廃止されてほぼ半世紀。天然痘をめぐる歴史をたどらせる、今回の異変だ。そういえば、遠い天平時代のパンデミックは海外交流の拠点だった太宰府から始まったらしい。グローバル化の宿命を乗り越えて、先人たちは歩んだ。

 

欧米を中心に天然痘に似たサル痘の患者が見つかっている。ウイルスというのは油断もスキもない。今回の異変を機に天然痘の歴史を振り返ってみたい。人類は8世紀から始まり近世までの長い間、苦難を味わった。流行は60回に及ぶらしい。18世紀末、英国のジェンナーが種痘を開発し時代は終わる。200年後、WHOは天然痘の根絶を宣言した。もっとも今回のサル痘は軽症で天然痘のワクチンが効くらしいから冷静に推移を見守りたい。