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旧ソ連にトロフィム・ルイセンコという農学者がいた。1934年、種を低温処理する「春化」によって小麦の収穫量が上がり、秋まき小麦を春まき小麦に変えられるとの学説を、自ら編集する学術誌に発表した。科学史上最悪のねつ造とされるルイセンコ事件である。

メンデルの法則に従えば後天的に獲得した形質は遺伝しない。学説は当初、国内でも非科学的とされたが、スターリンが支持し状況は一変する。ルイセンコは農業科学アカデミー総裁に出世し、批判した科学者は次々と追放、粛正された。独裁者が胡散臭い科学者を重用したのは思想が「共産主義的」だったからという。

東欧諸国や中国でもこの農法は取り入れられた。むろん革命的に収穫が増えはしなかった。今日「春化」で品種が変わると信じるまともな専門家はいない。それでも事件の後遺症は長く尾を引いた。優秀な人材を手放し、誤った教育を何十年も続けた結果、ロシアは生命科学分野で世界の潮流から取り残されることになる。

ウクライナ侵攻から約3ヶ月。ロシアから頭脳流出がやまないと聞く。正しいことを言えない国、嘘を強いる国、自由を抑圧する国で、真理を探究する科学は生きていけない。プロパガンダで覆い隠せると思うのは大きな間違いだ。虚偽によって国が強くなった例はない。真逆の結果が待ち構えている。歴史の教訓である。

 

ウクライナ侵攻から3ヶ月経ったロシアで頭脳流出がやまないと聞く。旧ソ連では科学史上最悪のねつ造とされるルイセンコ事件があった。1934年、種を低温処理する「春化」によって秋まき小麦を春まき小麦に変え、小麦の収穫量を増大させられると主張した。スターリンがこの学説を支持し、ルイセンコは農業科学アカデミー総裁に出世した。そして批判した科学者は次々と追放された。この事件は長く尾を引き、ロシアは生命科学分野で世界の潮流から取り残された。今ロシアはこの歴史的教訓から学ぶべきだろう。