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「百姓」は農民だけを意味する言葉ではない。海上交易や金融業を営む商人も含む概念だった。歴史学者網野善彦さんはそう確信した。能登半島の旧家・時国家に伝わる古文書を読み解きその証拠を発見したのだ。著書「古文書返却の旅」で研究の経緯を語っている。

網野歴史学の足跡をたどるため、美しい半島を旅したことがある。時国家や、北前船の交易も手がけていた古い酒蔵などを訪ね歩いた。能登杜氏という言葉があるように、美酒を醸す技にたけた土地である。腕利きの職人たちが各地に酒造りを伝えた。日本酒愛好家なら「奥能登の白菊」や「宗玄」などの銘柄をご存じか。

石川県珠洲市震度6弱地震が起きた。かつて訪問したいくつかの蔵元は無事だろうか。ホームページをのぞくと、「大きな影響はございませんでした。ご心配くださった方、ありがとうございました」のコメントがあった。ひとまず、ほっとする。だが、余震が続く。自治体による住宅の被害状況の調査はこれからだ。

梅雨の季節である。雨漏りなどの被害が生じないか心配だ。地震や台風に備え、壊れた屋根を修理するトビ職人などの団体と支援協定を結ぶ自治体もある。被災地の作業には、危険が伴う。プロの力を借りる試みだ。そういえば網野さんは職能集団の歴史を掘り下げた。彼らの技と知恵を守り伝え、災害支援に生かしたい。