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1953年から16年間にわたり、米連邦最高裁長官を務めたアール・ウォーレンは自身を指名したアイゼンハワー大統領の「期待」をことごとく裏切った。共和党の元カリフォルニア州知事で、戦時中は日系人の強制収容を推進した人だ。ところが就任してみると…。

この長官の率いる法廷は人種隔離政策への違憲判決を次々に下し、公民権運動の高まりを後押しした。刑事被告人の権利を守る画期的な判断を示した。「1票の格差」問題で、投票権平等の原則を打ち出した。ウォーレン・コートは米国を変えた、と言われるゆえんだ。政権の思惑に乗らぬ、司法のプライドをそこに見る。

そんな歴史に引き比べると、さて、いまの連邦最高裁は…。先日、人工妊娠中絶の権利を認める判決を49年ぶりに覆したのに続き、発電所の温暖化ガス排出をめぐり、連邦政府の規制に縛りをかける判断を出した。トランプ大統領が保守派3人を指名、リベラル派との均衡が大きく崩れたなかでの巻き戻し現象だ。

米国では以前から、今日を予見する声があったという。「判事が自分の指名者である大統領を驚かせる時代は終わった」と、2013年刊の「ザ・ナイン アメリカ連邦最高裁の素顔」(ジェフリー・トゥービン著、増子久美・鈴木淑美訳)は断じてみせた。いま前大統領の置き土産を前に、現大統領が途方に暮れている。

 

米連邦最高裁が人工妊娠中絶を認める判決を49年ぶりに覆す判断を示したのに続き、発電所の温暖化ガス排出をめぐり連邦政府の規制に縛りをかける判断を示した。トランプ大統領が指名した保守派3人により、リベラル派との均衡が大きく崩れたなかでの巻き戻し現象だ。かつて最高裁長官を務めたアール・ウォーレンは自身を示した大統領を驚かせる判決を次々に繰り出した。そこには政権の思惑に乗らぬ司法のプライドがあったろう。判事が大統領を驚かせる時代は終わったのか。