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20世紀の幕が開いて間もない1901年2月2日。夏目漱石はロンドン中心部の人混みの中にいた。64年近くにわたって在位し、81歳で没したビクトリア女王の盛大な葬列を見物するために。よく見えるように下宿屋の主人が肩車をしてくれた、と日記につづっている。

大英帝国の絶頂期の象徴がビクトリア女王だった。漱石が友人に宛てた手紙に「もう英国もいやになり候」とある。帝国主義的な葬式に嫌悪感を抱いたのか。中国・清とのアヘン戦争に勝利した英国は南京条約を結び、香港を割譲させた。女王の時代の出来事だ。かの地にビクトリアの名を冠した湾や公園があるゆえんだ。

香港が英国から中国に返還され、25年を迎えた。本紙は、97年7月1日に日付が変わる瞬間の街角の人びとの表情を伝えている。「パッテン総督が香港を離れる。英国の統治が終わるのは嬉しい」(45歳男性)。「私は中国人だけど香港の今後が心配」(27歳男性)。四半世紀の時を経て、懸念は現実になってしまった。

今春から高校で新科目「歴史総合」が必修になった。近世以降の日本と世界の歴史を一体的に学習することが期待されている。戦時中、日本は香港を占領した。戦争犯罪で訴追され、当地で刑死した元日本兵の遺書や日記が国会図書館などで閲覧できる。香港の歴史と現在、未来は、私たちにとって人ごとではないはずだ。

 

香港が英国から中国に返還されて、25年を迎える。97年7月1日に日付が変わる瞬間の街角の人びとの表情を本紙はとらえている。香港が返還されて喜びの声がある一方で、不安視する声もあった。そして四半世紀を経た今、懸念は現実のものになっている。日本は戦時中、香港を占領していた。戦争犯罪で訴追され、当地で刑死した元日本兵の遺書や日記が残っている。日本人にとっても、この地の歴史や未来は人ごとではない。