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北京冬季五輪が開かれた今年2月、兵庫県の俳句同人誌「里」にユニークな特集を組んだ。題して「羽生結弦を季語にする」。55句が載っている。例えばこんな句である。「光あれ羽生結弦と東北と」(藤井美琴)。被災したふるさとに寄り添い続けた姿が眼に浮かぶ。

その躍動する姿と笑顔は冬の心象風景として日本人の心に刻まれている、と言ったら大げさだろうか。季節こそ異なるが、おとといの記者会見もそんな時間だったかもしれない。多くの人が「決意表明」を見守り、発言はSNSで広まった。この10年余、沈みがちな日本を励ましてきたスターである。

五輪や世界選手権の大舞台で華麗な跳躍に拍手を送れないのは、本音をいえば少し寂しい。とはいえ、リンクを降りるわけではない。まだ27歳。同世代の社会人は仕事に自信をもち、さらなる高みを目指して力をためている時期だ。自身が最大のパフォーマンスを発揮できる場を求めて、職場を移る発送かもしれぬ。

「いろんな夢や希望を見せてもらえるな、と思ってもらえる存在として、これからも努力していきたい」。何とも力強く、ぐっと背中を押される言葉ではないか。4回転半ジャンプへの挑戦も続けるという。冒頭の特集からもう1句。「限界のその先にある結弦かな」(井本也屁)。私たちも、「その先」を見たい。