2/8 アスリートの言葉

「ぼくが魔物だったかもしれないです」。こんな受け答え、なかなかできまい。北京冬季五輪のスキーのジャンプ男子個人ノーマルヒルで、金メダルに輝いた小林陵侑選手だ。競技後、五輪にすむ魔物の存在に、こう切り返したそうだ。自負と歓喜があふれる。

ジャンプの個人種目では24年ぶりの栄冠。くしくも半世紀前、札幌五輪の70メートル級で日本が金銀銅を独占したときと同じ日、同じ曜日だったという。小学生で出身県の育成事業に選ばれ、ラグビーレスリングでも「世界に通用する」と称されたスーパーキッズは、才におごらぬ努力と研さんの末、世界の頂点へと上りつめた。

一方「金メダル候補と言っていただいた中で、申し訳ない気持ちでいっぱい」と涙したのは女子モーグルの川村あんり選手。17歳は5位の成績をわびたが、目にした多くの人が「そんなことはない」とかぶりを振ったことだろう。「諦めなければ夢はかなうと伝えたい」。自らに言いきかせるように次なる飛躍を誓った。

アスリートの言葉が響くのは、高みへの鍛錬が一句一句を磨くからだろう。「絶対勝ちたい」。そう名言し、フィギュアスケート男子で94年ぶりの3連覇を目指す羽生結弦選手もきょう登場する。五輪には確かに魔物が潜む。だが、重圧に正面から挑んだ者のみが語れる珠玉の一言もやはりある。心に刻み、糧にしたい。