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歌舞伎などの芝居で背景の山や川、橋などを描いた大道具を「書き割り」と呼ぶ。貧乏暮らしで家財道具を売り払った男が、近所の画家に豪華な家具を描いてもらい家の壁に貼る。武道の腕があるように見せるため、ついでにヤリも。古典落語「だくだく」である。

ある日、この部屋に泥棒が忍び込む。タンスの引き出しに手をかけたが、絵であるから開かない。住人はモノがあるつもりで暮らしているのか。それなら、こっちも盗んだつもりになろうじゃないか。金庫を見つけて大金をせしめたつもり。それを風呂敷に包んだつもり。滑稽な独り芝居を演じる身ぶりが、実に楽しい。

でも、こちらの茶番は罪深い。親ロシア派が実行支配するウクライナ東部、南部の州でロシアへの編入の賛否を問う住民投票が実施される。ロシア軍の統制下で行われる投票の結果に、どれだけの真実が含まれているのか。圧倒的民意を手に入れた「つもり」になるだろう。フランスの大統領は「パロディー」とこき下ろす。

落語では、住人が書き割りのヤリを手にとって、退治したつもりになる。泥棒は「血がだくだくと出たつもり」と応じる。演目の由来だ。ロシアはウクライナの反転攻勢を受け、30万人規模の予備役を動員するという。和平への期待は遠のき、さらなる流血を招く事態が懸念される。出口が見えない現代の不条理劇である。