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「信なくば立たず」。日本の政治家はこの言葉をよく使う。岸田文雄首相も1年あまり前に自民党の総裁選に立候補したときにこのフレーズを使い、さらにこう語った。「政治の根幹である国民の信頼が崩れている」。立て直したいとの決意の表れだったはずだ。

岸田内閣の支持率が、驚くスピードで落ちている。旧統一教会自民党との関係や安倍晋三元首相の国葬に対する厳しい評価が響き、秋の日が落ちる速さで国民の心が離れつつある。7月の参院選が終わったとき、大型の国政選挙が当面ないことを指して「黄金の3年間」と言われた。そんな予想がいまや遠くにかすむ。

よく知られているように、「信なくば」は中国の古典「論語」に由来する。政治について弟子から問われた孔子が、軍備や食料を十分にすることよりも、まずは民衆の「信」のほうが大切だと説いた。国際社会にはいま軍事紛争と飢えのリスクが満ちている。そんな世界と日本が向き合うにも、政治への信頼が欠かせない。

急落する支持率について記者団から問われた首相は、まるで自らに言い聞かせるように「一喜一憂しない」と話した。「聞く力」を看板に掲げて登場したリーダーに、国民が求めているのはとてもシンプルなことだ。「私にはやるべきことがある」。総裁選に打って出たときの初志を、どれだけ形にできているのだろうか。