10/24 駅弁の魅力

全国の時刻表が載る月刊誌「時刻表」の使い道は広かった。客の少ない鈍行の夜行列車では堅い肘掛けに置き枕代わりに。巻末の旅館案内はネットのない時代に重宝した。楽しみは各ページ欄外の駅弁案内だ。名称と値段だけという素っ気なさが想像力をかき立てる。

1964年の時刻表を見ると、東京駅の駅弁の筆頭はこの年誕生したチキン弁当(200円)。中身の柱はケチャップご飯と唐揚げだ。価格は浜松駅のうなぎめしと同じで熱海駅あじ押ずしの2倍という高額品だった。これら工夫を凝らした駅弁は「特殊弁当」と呼ばれ、白米とおかず数点の「普通弁当」とは区別された。

今、駅に豪華な弁当がずらりと並ぶ。時刻表の東京駅の欄が最初に紹介するのは名店の一品の詰め合わせで、お代は1850円也。付加価値を高め価格も上がり続ける駅弁だが、シンプルなチキン弁当も健在だ。値段は安めの900円で掲載順こそ下がったものの、勢いのいい後輩らにまじり気を吐く。ファンが多いのだ。

苫小牧から襟裳岬方向に向かう日高本線。鉄道の大半は廃止されたが、終着駅の様似駅で売られていた名物、つぶ貝弁当は地元の手で復活し、全国に通信販売する。「駅弁を失ったら、旅行も味気なくなる」。映画評論家、瓜生忠夫さんの随筆の一説だ。鉄道も駅弁も実用品として生まれ、それ以上の何かに育った。