10/23 ポンチ絵の精神

幕末から明治にかけて「ポンチ絵」なる言葉がちまたで大はやりした。風刺のきいた漫画の意味で、日本初の漫画雑誌「ジャパン・パンチ」が由来だ。記者として来日していた英国人のチャールズ・ワーグマンが母国の「パンチ誌」をまねて明治前夜に創刊した。

庶民の生活を活写する一方、役人や政治家を手厳しく戯画化した。「拙者が好きなのは文明だけでござる」。ちょんまげの武士が慣れないズボン姿で葉巻を手に胸を張る。松の根元のキノコは権力にすりよる役人衆だ。政府をちゃかした反骨の絵師、河鍋暁斎も英国仕込みの辛辣なユーモアを大いに楽しんだ。

風刺大国の面目躍如といえようか。先日、英国のトラス首相がスピード辞任を表明するや、メディアやネットが現代版ポンチであふれた。有名な民泊サイトに仕立てた首相官邸の写真に「短期滞在にうってつけ」のフレーズがおどる。超短命に終わった政権を、傷むのが早いレタスになぞらえるものもあった。

笑いは権力者を揺さぶる。同時に、それで正真の政治家の名声が失われることはない。政治風刺に詳しい英保守党の元議長ケネス・ベイカー氏の持論だ。いま一度、大いなるポンチの精神にならい、日本の政界に活を入れたい。インフレ、円安、コロナ対策。政治の信念が正真であれば風刺に吹き飛ばされることもあるまい。