11/20 飲食の人手不足

明治の終わりごろの話だろう。美食家として名をなす前の北大路魯山人がビアホールで洋食を頼もうとした。しかし「ビフテキ」が野菜か肉か、あるいは飲み物なのか、まったく分からない。隣の客の声に耳を澄ませ、運ばれた料理を確認して、その名を覚えたという。

いまだって、隣の席につられて注文を決める方はおられよう。が、そんな光景はそのうち消える運命かも。久しぶりに訪れた焼鳥店に「注文はスマホで」の張り紙があった。横にはQRコード。セルフオーダーだ。部位と本数、塩かタレか。酎ハイは濃さを指定できる。少々味気なく感じつつも、きめ細かさに舌を巻いた。

感染防止のために人との接触を極力減らす。だけでなく、深刻な人手不足を補う目的もあるようだ。飲食や観光業を中心に働き手が足りず、アルバイトの時給が上がり続けていると聞く。スタッフが集まらず閉店や休業する店もそれほど珍しくなくなってきた。年末の繁忙期を前に、頭を抱えている人も多いはずだ。

人の往来が復活し、訪日外国人も戻りつつある。にぎわいの兆しを摘まぬためには働き方の多様化とともに、新しい技術の導入が欠かせない。最近は配膳ロボットも増殖中だ。メニューに悩む客に人工知能がアドバイスする時代がいずれくるかもしれない。ついでに飲みすぎをいさめてくれるとありがたいのだが。